「波止場てつがくカフェ★横丁」プロジェクトのご報告

「波止場てつがくカフェ★横丁」プロジェクトのご報告




波止場てつがくカフェは、これまで13回の対話を開催してきました。

しかし実はそれ以外に、これまでに計4回、対話の場を開いたことがあります。

4回とも場所はいずれも渋谷。野宿生活を送る方々が多く集まる場をお借りして、そこに集まる方々を対象にした対話です。

ふーん・・・、という感じかも知れません。

なぜ改めて今、発表することにしたの? と、思われる方もいらっしゃることでしょう。

以下、ご説明申し上げたいと思います。


1、「誰でも参加できる」

波止場てつがくカフェは、人がその属性に関わらず参加することができる対話の場の実現を目指しています。

なぜなら対話の本質は、その人がどのような人であるかではなくて、その人が何を語っているのかにあると考えるからです。

しかし、一言に「誰でも参加できる」といっても、それを実現することは大変に難しいことです。

暮らしている場所が離れているという問題。言語の違い。身体機能の違い。

「対話」以前に、ひと処に人が集まるということでさえ、それを実現することには多くの困難があります。

さて、そのような多くの困難・障壁の中でも、とくに困難なものの一つに経済力、つまり「お金」の問題があります。

昨年8月、私達は宮下公園にて、野宿で生活を送る方々のために行われた「渋谷夏まつり」を会場として、「波止場てつがくカフェ」を開催しました。

後になって振り返ってみると、設備や環境の面で色々と課題が残る回になったとは思っているのですが、それでも、「参加無料」と掲げて行うことができたということは、大変得がたい経験であったと思っています。

お祭りのために来てたまたま、という参加者が多かったと思いますが、野宿で暮らしていると思しき方々も住居があるだろうと思われる方々も共に対話に加わり、ある深さを持った言葉のやり取りをすることができました。

家がある人も、ない人も――というばかりではなく、およそ人の居住形態、そして財産に関わらず、人がひと処に集まって対話を行う。

このような場の実現は、カフェなどの飲食店を会場として開催していたのでは、恐らく実現できないことであっただろうと考えています。

もちろん、単に経験や生活環境等の隔たりが大きい人同士が集まることで、充実した対話が実現されるというわけではないでしょう。「その人が何を語っているのか」にまっすぐに向き合うことの困難が、まずあります。

しかし、充実した「対話の場」とは同時に、思いもよらない「出会いの場」でもあるのだと思うのです。

そしてそうした「出会い」へと人が開かれているためにも、「誰でも参加できる」という目標は、欠かせない理念であると考えます。

その後も渋谷にて、野宿生活を送る方々に呼びかけて開催した対話は、私達にそのことを再確認させるものとなりました。


2、問題は「金銭」だけではない

波止場てつがくカフェは、1000円を超えるような費用のかかる対話の開催を、まず考えません(都心部で1000円以下の参加費で満足に対話が行える環境を探すことは、かなり困難ですが…)。

しかし、例え1000円に満たない金額であったとしても、用意することが難しい方、支出が難しく参加をあきらめる方がいることも、厳然とした事実です。

また、問題は金銭的なものばかりにとどまりません。私たちは、もう少し想像力を働かせなくてはなりません。

今仮に、費用的な問題はクリアされ、たとえば東京23区内どこからでも徒歩で行けるエリアにあるカフェを無料で利用することができるとします。

不特定多数の人に向けて「誰でも参加できます」とうたい対話の場がもうけられたとして、果たしてその場に、ホームレスと呼称される方々がやってくるだろうか…。

「誰でも」ということは、誰にとっても理想的な条件と言えるのでしょうか。また、そこで掲げられる「参加できる」とは、何を意味するのでしょうか。

誰でも参加可能と聞いて、臆せず参加できるということは、社会的なアドバンテージの一つなのだと、私たちは気づく必要がありました。

私たちの偏見・臆見はあらゆる場面に忍び込み、社会の分断は到るところにおよびます。

「誰でも参加できる」からこそ、「私は参加できない」ということもあるのだという現実を、私たちは考えなければなりませんでした。


3、「波止場てつがくカフェ★横丁」

しかしもちろん、波止場てつがくカフェは、「誰でも参加できる対話の場」の実現をあきらめるものではありません。

多様な「出会いの場」こそが「対話の場」の充実を実現するものである以上、どのようにすれば障壁なく人々が参加することができるのか。今後も知恵を絞りながら、様々な試みを行っていきたいと思っています。

これまで行った都合4回の野宿で生活を送る方々を対象にしたてつがくカフェは、まさにそうした人の「経済力の違い」に起因する出会い・対話の困難を乗り越える方法を探る試みでもあったと考えます。

しかし、それは解決策というにはあまりにささやかであって、そもそも不十分だと思っています。

であるならば、「誰でも参加できる対話の場」という理想を追求しつつ、一方では参加対象を一定程度限定した対話の場を設けるしかないのではないか――。

これが私達の、現在の暫定的な回答です。

そのようなわけで、波止場てつがかくカフェは、通常の「誰でも参加できる」てつがくカフェとは別に、参加対象を限定した対話の場を設けていきたいと思います。

特に、主に野宿で生活を送る方々に呼びかけて開催する対話については、これまでの取り組みを引き継ぎ、継続して実施していきたいと思います。

プロジェクト名は、「波止場てつがくカフェ★横丁」。

通常のてつがくカフェとは違うので、報告や事前の告知に制限を設けることをやむなしとしています。何卒ご了承下さい。

「横丁プロジェクトに興味がある!」「もっと詳しく聞いてみたい」という方は、どうぞ当方まで直接お問い合わせください。

以上、「波止場てつがくカフェ★横丁」プロジェクトのご報告でした。


2017年5月9日 波止場てつがくカフェ