【報告】第9回 「<籍>とはどこにあるのか?」

【報告】第9回波止場てつがくカフェ 「<籍>とはどこにあるのか?」


第9回波止場てつがくカフェは、予定時刻の15時から少し遅れて開始されました。

参加者から話されたのは、主に国籍と戸籍についての話でした。

  • 自分はかつて、「国籍というものは、必要もないのに人を分け隔てる悪いものなので、なくしたほうがよいと考えている」という話を、在日の人にしたことがあるのだが、「あなたの意見は、確たる国籍をもった「『持てる人」だから言えること」であると、怒られたことがある。
  • 国籍がないということで、様々な不利益を被ることがある。

  • 戸籍についても、制度にしばられたくないという考え方がある一方で、地方自治体がLGBTの制度的パートナーシップを認める条例をつくる動きも。制度を設けることで様々な社会資本にアクセスすることができるということもある。国籍というものについて、いろんな側面があるなと感じた。

     
  • 一定の年齢になるまで「本籍地」というものの存在を意識することなく育ったが、大人になって初めて「本籍地はどこか」と尋ねられた時、なんだか不安な気持ちになった。個人の心情としては全く関わりがないと感じる場所が、自分の知らないところで、自分に関わる情報として存在していることがなんだか気持ちがわるかった。

  • 戸籍は徴税をするために設けられたものだが、日本では部落差別の原因のひとつをつくっている。また、イエ制度を補強し、女性差別の原因にもなっている。

  • 国籍は、外国人と内国人を分けて管理するためのツール。どちらも権力者の支配のための道具。

  • 国籍は人を支配するためのツールである一方、抑圧された民族が抵抗の理念とすることも。そこでは、失われたアイデンティティーの回復が目指される。
  • 韓国では戸籍は廃止された。単なる住民登録ではなく、血縁関係のルーツを辿ることができるように記録される日本の戸籍制度を廃止できないのは、純血主義の表れ。
  • 世界では重国籍を認める国もあるが、仮に国籍の変更が容易になったとしても、それで血縁的ルーツによる差別がなくなるとは限らない。
  • 国籍についても戸籍についても、制度としての側面と精神的側面とがある。


ファシリテーターからは、補足として英語訳の問題を申し上げました。

曰く、「籍」をネットで自動翻訳すると「nationality」の文字が当てられる一方で、徴税のための人の登録制度という場合は「Registration」と訳すのが通常である、と。

話題がかなり活発に提出されたとの判断から、対話は問いの設定に向けたキーワードの抽出へと移すこととしましたが、問いを立てるのは、なかなかの難航となりました。

提案されたキーワードは以下の通り。

  • 制度/精神
  • 下記を含む上位概念としての「文化」
    1,差別と抑圧
    2,闘い、自由、解放
    3,アイデンティティ(自分とは何者なのか)
  • 安心(自分が感じられるもの)
  • アドバンテージ(統治の結果与えられるもの)
  • 男女の区別(特に戸籍)
  • 差別意識
これらのキーワードを受けて当初、問いとしては以下のものが提案されました。


  • 国籍は必要なのか?戸籍は必要なのか?
  • 戸籍・国籍は選べた方がよいのか?
  • 私達はなぜ籍というシステムを受忍しているのか?



上記の問いについての答も用意されました。

しかし、てつがくカフェの目的は、私達が普段は問わずに済ましていることを改めて問い直すことで、日常見えている風景をより根源的なものにすることであります。

ファシリテーターとしては、上記の問いはそういったものにはなっておらず、単に制度要/不要、もしくは正否をジャッジするための「べき論」に陥ってしまうと感じられたため、その旨の懸念を申し上げました。

更なる対話の結果、以下のような問いが提案されました。

問い
私たちは、なぜ自分のアイデンティティ=〈正体性>、ある人にとっては「籍」)を持っているにもかかわらず、それを戸籍や国籍といった統治システムに委ねてしまうのか?

 


1,統治システムに委ねない場合
→自分のアイデンティティに合うよう時には闘う

2,統治システムに委ねる場合
アドバンテージを得ているから




ファシリテーターとしては当初、問いの方向性が制度としての要/不要や、「べき論」へと傾斜していると感じられ、大変不安を感じていたのですが、最終的には〈籍〉というものが個人の固有性・アイデンティティといった、新たな解釈を見出す問いへと開かれていったことに、大変充実を感じました。

問いから解への接合に問題がないわけではありませんが、参加された皆様には、〈籍〉というものの本来的機能、根源的意味を確認頂き、新たな認識をお持ち帰り頂けたのではないかと考えております。

「〈籍〉はどこにあるのか?」と、テーマとして示させて頂きましたこの問いも、この日の対話に照らせば、その答は自ずから明らかなようにも感じます。

参加された皆様お疲れ様でございました。

大変ありがとうございました。



チラシ表 ※画像クリックで印刷


■第9回波止場てつがくカフェ 「<籍>とはどこにあるのか?」
■日時:10月30日(日)15時~
■場所:カフェ・エクレシア銀座店(東京都中央区銀座1-24-5)
■参加費700円(ワンドリンク付き)

※「本レポートは対話の場の主催者として掲載するものですが、報告者の個人的見解を前提としています。種々の制約によりラフな記録と記憶をたよりに作成されているため、現になされた対話の事実と食い違うところがあるかもしれません。何卒ご承知おき頂きたく、お願い申し上げます。


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【告知】第9回波止場てつがくカフェ 「<籍>とはどこにあるのか?」
http://www.hatoba-de-dialogue.net/2016/10/schedule20161030.html